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このページの要点:
- ヌーナン症候群は多くの場合、新生突然変異(de novo変異)によって発生し、両親の遺伝子検査の必要性は限定的
- 最新のCOATE法は従来のNIPTより飛躍的に精度を向上させ、微小欠失症候群と単一遺伝子疾患の検出に特に優れている
- COATE法は検査できる遺伝子数が25から56に増加し、陽性的中率も約70%から99.9%へと大幅に向上
- ミネルバクリニックでは臨床遺伝専門医による適切なカウンセリングと最新の検査技術で、次のお子さんのリスク評価をサポート
みなさま。こんばんは。ミネルバクリニックは、遺伝診療を専門医として「地域で診療する」全国に例を見ないクリニックです。そのため、本当に重たい悩みを持った方々がご連絡をくださいます。そういうご相談をご本人たちの個人情報を抜いて皆さんにお伝えします。遺伝診療でどんなことが行われているのか、臨床遺伝専門医がどんな役割を果たしているのかがわからない人たちが殆どと思うからです。
このコラムについて
このコラムでは、「第1子がヌーナン症候群でした。次の子どもは大丈夫でしょうか?」という、実際に当院に寄せられたご相談をもとに、臨床遺伝専門医の立場から情報提供しています。お悩みを抱える方の参考になれば幸いです。
相談者からのお問い合わせ内容
ある日、電話とメールを頂きました。
その他いろいろ書かれてあったことはあるのですが、詳しい状況は割愛させていただきます。このかたは、実は、悪性腫瘍の治療歴があります。
ヌーナン症候群について
ヌーナン症候群とは
ヌーナン症候群は、RAS/MAPKシグナル伝達経路に関わる遺伝子の変異により引き起こされる先天性疾患です。特徴的な顔貌、先天性心疾患、低身長、骨格異常などの症状が見られます。発症頻度は出生1,000~2,500人に1人程度と推定されています。
ヌーナン症候群の主な特徴
- 先天性心疾患(肺動脈弁狭窄症が多い)
- 低身長
- 特徴的な顔貌(眼間乖離、翼状頸など)
- 胸郭の変形
- リンパ管形成異常(羊水過多、胎児水腫の原因になることも)
- 軽度から中等度の発達の遅れがみられることがある
発症のメカニズム
ヌーナン症候群は、RAS/MAPKシグナル伝達経路に関わる様々な遺伝子(PTPN11、SOS1、RAF1、RIT1、KRAS、NRAS、BRAF、SHOC2、PPP1CB、CBLなど)の変異により引き起こされます。これらの遺伝子変異は、細胞の増殖や分化に重要な役割を果たすシグナル伝達経路に影響を与え、様々な身体的特徴や異常を引き起こします。
ヌーナン症候群の原因となる遺伝子変異は、以下の二つの経路で発生します:
- 親から受け継がれる(常染色体優性遺伝):片方の親が同じ遺伝子変異を持っている場合、子どもに50%の確率で遺伝します。
- 新生突然変異(de novo変異):両親のどちらも遺伝子変異を持っていない場合でも、精子や卵子が形成される過程、または受精直後に新たに変異が生じることがあります。ヌーナン症候群の多くは、この新生突然変異によるものとされています。
次の子どもへのリスク評価 – 最新のCOATE法による高精度検査
この方のご相談の核心は「次の子供をもうける前に、親の遺伝子検査が必要でしょうか」という点です。この質問に対する回答を考える前に、ヌーナン症候群の遺伝的リスクと現在利用可能な最新の検査技術について理解する必要があります。
新生突然変異の重要性
ヌーナン症候群は、多くの場合(約60-80%)が新生突然変異(de novo変異)によって発生します。つまり、両親のどちらも遺伝子変異を持っていないにもかかわらず、精子や卵子が形成される過程、または受精直後に新たに変異が生じることで発症します。
本ケースでは、お子さんのヌーナン症候群が新生突然変異によるものである可能性が高いと考えられます。その場合、次のお子さんもヌーナン症候群になる確率は、一般集団での発症率(1,000~2,500人に1人)とほぼ同等となります。
COATE法とは?
COATE法(COordinative Allele-aware Target Enrichment)は、「協調的アレル意識ターゲットエンリッチメント法」と呼ばれる最新の出生前診断技術です。従来のNIPT技術と比較して、染色体異常や微小欠失症候群、単一遺伝子疾患の検出精度が飛躍的に向上しています。
特に微小欠失症候群の検出において、従来技術では陽性的中率が約70%程度だったものが、COATE法では99.9%という驚異的な精度を達成しています。また、検査できる遺伝子数も25から56に拡大し、より多くの単一遺伝子疾患のスクリーニングが可能になりました。
特徴 | 従来のNIPT | COATE法 |
---|---|---|
検出原理 | リード数の偏りのみ分析、または限定的なSNP解析 | リード深度、アレル頻度、連鎖SNPの統合的多次元解析 |
微小欠失症候群の陽性的中率 | 約70%(約半数が偽陽性) | 99.9%(偽陽性ほぼ皆無) |
検査対象遺伝子数 | 25遺伝子 | 56遺伝子 |
単一遺伝子疾患の検出 | 限定的~不可 | 高精度で検出可能(34種以上の優性疾患) |
de novo変異の検出 | 困難 | 高精度で検出可能 |
ご相談者への回答
わたしはこう電話でお返事しました。
まずは、ヌーナン症候群は殆どがde novoといわれる新生突然変異なので、今回そうだったからといってご両親の遺伝子検査をする必要性はあまり感じない、という意見を述べました。もちろん、わたしは自信がないので、複数いるわたしの指導医にちゃんと相談しています。指導医たちは遺伝業界の重鎮です。
どうして自信がないかというと。大学病院とかにいたら、常にいろんな医者とディスカッションできますよね。開業医になったわたしにその環境がないので、独善的になっていないか、というチェックは欠かさずせねばなりません。だから、少しでも悩んだらいつも、お師匠たちを巻き込んでいます。ミネルバクリニックは先進的な取り組みばかりしているので、そうやって学問的に支えてくれえる師匠(医学部教授ともいう)たちは大変ありがたいです。
悪性腫瘍治療歴とヌーナン症候群の関係
この方の場合、悪性腫瘍の治療歴があるため、抗がん剤治療が精子形成に影響を与えた可能性についても考慮する必要がありました。抗腫瘍薬(特に細胞障害性の薬剤)は精母細胞の分裂に影響を与え、遺伝子変異のリスクを高める可能性があります。
ただし、精子形成は複数のクローンから行われるため、一部の精母細胞に影響があったとしても、すべての精子が同様の異常を持つわけではありません。次の妊娠で同じ変異が生じる確率は極めて低いと考えられます。
そして、もしも次にお子さんを授かったら、遠くからミネルバクリニックに来てくれるって言うことになりました。次もまた同じことが起こったら耐えられないです。子供を失うって本当に辛い。わたしも36週6日で死産したのでその辛さはよくわかる。
COATE法を用いた出生前診断の選択肢
出生前診断の選択肢
- COATE法によるNIPT:妊娠早期(9週以降)に母体血液から胎児DNAを分析する非侵襲的検査。高精度でヌーナン症候群を含む単一遺伝子疾患を検出可能。
- 羊水検査:妊娠15〜18週頃に羊水を採取して胎児の染色体や遺伝子を直接検査する確定診断。約1/300の流産リスクあり。
- 絨毛検査:妊娠10〜13週頃に絨毛(胎盤の一部)を採取して検査する確定診断。約1/100の流産リスクあり。
COATE法のメリット
- 高い陽性的中率:従来技術の約70%から99.9%へと飛躍的に向上
- 56遺伝子の網羅的検査:従来の25遺伝子から大幅に拡大
- 流産リスクがない:母体血液のみで検査可能な非侵襲的方法
- 早期検査が可能:妊娠9週から検査可能で早期にリスク評価ができる
- 複数の疾患を同時に検査:染色体異常、微小欠失症候群、単一遺伝子疾患を一度にスクリーニング
COATE法によるNIPTは、以下のような方に特におすすめです:
- ヌーナン症候群などの単一遺伝子疾患の家族歴がある方
- 過去に染色体異常や遺伝性疾患の子どもを出産した経験がある方
- 高齢妊娠の方(35歳以上)
- 超音波検査で胎児の異常が疑われる方
- 不安を軽減するために高精度な検査を希望される方
まとめ:次のステップと希望
そして。こういう悲しい思いをした人たちが、悲しみを乗り越えて、またお子さんを持ちたい、と思えるようにその背中をそっと押す。わたしはそういう仕事をしている自分を最近ではちょっと誇らしく思っています。まだまだ全然師匠たちにはかないませんが。いつか日本一の臨床遺伝専門医になってやる、という闘志を燃やしています(笑)
こうした妊娠出産で傷ついた人たちが、悩みを寄せてくれる。これからも、いろんな人たちの駆け込み寺的な存在でありたいと思います。
当院でのサポート体制
ミネルバクリニックでは、遺伝に関するご不安やお悩みに対して、臨床遺伝専門医による適切な情報提供とカウンセリングを行っています。COATE法などの最新技術を用いた検査も提供しており、妊娠前・妊娠中のどの段階でも、あなたに合ったサポートをいたします。
詳しくはCOATE法とは?次世代NIPT検査の精度と従来法の違いを徹底比較【2025年最新】をご参照ください。
よくあるご質問(FAQ)
さらに詳しい情報をお求めの方へ
その他のご質問やより詳細な情報については、お気軽にお問い合わせください。臨床遺伝専門医が丁寧にお答いたします。
詳しくはCOATE法とは?次世代NIPT検査の精度と従来法の違いを徹底比較【2025年最新】もご参照ください。