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遺伝診療とは?|遺伝カウンセリング外来のご案内


遺伝診療においては、遺伝的要因を持つ可能性のある疾患を持つ、またはそのリスクのある個人や家族に対して、診断サービスと遺伝カウンセリングを提供する医学専門分野です。遺伝診療を提供する外来のことを遺伝カウンセリング外来と言います。

医療の進化と遺伝医学

太古より医療はマクロ(みてわかるもの)を頼りに診療されてきました。医師は患者の外見や症状、触診などの五感を駆使して診断を行い、経験と知識に基づいて治療法を選択していました。この時代の医療は、目に見える症状や体の変化に基づく「形態学的アプローチ」が中心でした。

17世紀に顕微鏡が発明されると、医療は大きな転換点を迎えます。顕微鏡の開発によりミクロの世界(顕微鏡下で見える世界)へと疾患を診断するための武器を変貌させ、進化を遂げました。細胞や組織、微生物の観察が可能になり、多くの疾患の原因が解明されていきました。19世紀末から20世紀初頭にかけては、細菌学や病理学が発展し、感染症の原因となる病原体の特定や、がん細胞の特徴の理解が進みました。

そして現代、医学はさらに進化を遂げています。顕微鏡でも見えない分子レベルの研究が可能になり、分子生物学や遺伝子工学の発展により、私たちの体を構成するタンパク質やその設計図であるゲノム(DNA)に焦点を当てた診断・治療が実現しました。2003年にヒトゲノム計画が完了して以降、遺伝子解析技術は飛躍的に発展し、コストも大幅に低下しました。その結果、以前は原因不明とされていた多くの疾患の遺伝的背景が次々と解明され、一人ひとりの遺伝情報に基づいた「精密医療(Precision Medicine)」や「個別化医療(Personalized Medicine)」が現実のものとなっています。

このような医療の進化により、病気の発症前に遺伝的リスクを評価し予防策を講じたり、患者さん一人ひとりの遺伝的特性に合わせた最適な薬剤や治療法を選択したりすることが可能になってきています。遺伝診療は、このような最先端の医学知識と技術を活用し、患者さんとそのご家族に最適な医療を提供するための専門分野なのです。

遺伝性疾患とは

遺伝性疾患は、身体のあらゆる部分やあらゆる年齢における身体の状況に影響を及ぼす可能性がある疾患です。遺伝医療サービスの目的は、遺伝性疾患に罹患している、または罹患する恐れのある人々が、可能な限り正常に生活し、お子さんを持つことができるように支援することです。

主な遺伝性疾患の種類

1. 染色体異常

染色体の数や構造に異常が生じることで発症する疾患群です。染色体は私たちの遺伝情報を担うDNAが凝縮したもので、通常は23対46本存在します。

  • ダウン症候群(21トリソミー):21番染色体が3本存在することで発症する症候群で、特徴的な顔貌や知的発達症、心臓疾患などを伴うことがあります。
  • ターナー症候群:女性の性染色体(X染色体)が1本のみの状態で、低身長や原発性無月経などを特徴とします。
  • クラインフェルター症候群:男性に余分なX染色体がある状態(XXY)で、不妊や身体的特徴などに影響します。

2. 単一遺伝子疾患

特定の1つの遺伝子に変異が生じることで発症する疾患群です。常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝などの様々な遺伝形式があります。

  • 嚢胞性線維症(システィックファイブローシス):CFTR遺伝子の変異により、肺や消化器系に影響する重篤な疾患です。白人に多く見られます。
  • 筋ジストロフィー:筋肉の機能を維持する遺伝子の変異により、進行性の筋力低下を引き起こす疾患群です。デュシェンヌ型は最も一般的でX連鎖劣性遺伝形式をとります。
  • ハンチントン病:HTT遺伝子の変異により発症する神経変性疾患で、常染色体優性遺伝形式をとります。舞踏運動や認知機能障害などが進行性に現れます。
  • 鎌状赤血球症:ヘモグロビン遺伝子の変異により赤血球が鎌状に変形し、貧血や痛みを引き起こす疾患です。

3. 家族性がん・がん症候群

特定の遺伝子変異により、がんの発症リスクが高まる疾患群です。これらの症候群では、若年発症や複数種類のがんの合併などの特徴が見られることがあります。

  • 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC):BRCA1/2遺伝子の変異により、乳がんや卵巣がんのリスクが大幅に上昇します。
  • リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん):ミスマッチ修復遺伝子の変異により、大腸がんや子宮内膜がんなどのリスクが高まります。
  • 神経線維腫症(NF1、NF2):良性腫瘍が皮膚や神経系に多発する疾患で、時に悪性腫瘍を合併することもあります。
  • リー・フラウメニ症候群:TP53遺伝子の変異により、若年で多様ながんを発症するリスクが高まる症候群です。

4. 多因子遺伝性疾患

複数の遺伝因子と環境因子の相互作用によって発症するとされる疾患群です。家族内での発症は見られますが、単一遺伝子疾患のような明確な遺伝パターンは示しません。

  • 神経管閉鎖障害:胎児の神経管の形成不全により、二分脊椎や無脳症などを引き起こす先天異常です。
  • 口唇口蓋裂:胎児期の顔面形成過程での異常により、上唇や口蓋に裂が生じる先天異常です。
  • 先天性心疾患:心臓の構造的異常を伴う先天性疾患群で、遺伝的要因と環境要因の両方が関与します。

そのほか、先天性欠損症や学習障害を持つ多くの人が、遺伝的要因の調査のために遺伝カウンセリング外来を訪れます。また、小児期や妊娠中のスクリーニングプログラムによって問題があるとされた方も、専門的な遺伝学的サービスを必要としています。

出生前診断と遺伝カウンセリング

近年、胎児の遺伝学的異常を出生前に検査する方法が進歩しています。主な出生前診断には以下のようなものがあります:

  • 非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT):母体血液中に存在する胎児由来のDNA断片を分析して、染色体異常(主にダウン症候群など)の可能性を調べる血液検査です。妊娠10週以降に受けることができ、侵襲性がなく母子へのリスクがありません。ただし、確定診断ではなくスクリーニング検査であることに注意が必要です。
  • 羊水検査:胎児が浮かぶ羊水を採取して、胎児の染色体や特定の遺伝子異常を調べる検査です。通常妊娠15〜18週頃に行われます。確定診断となりますが、流産のリスク(約0.5%)を伴う侵襲的検査です。
  • 絨毛検査:胎盤となる絨毛組織を採取して胎児の染色体や遺伝子を分析する検査です。妊娠11〜13週頃に行われ、羊水検査より早期に結果がわかります。ただし、流産リスク(約1%)があります。

出生前診断を受ける前後には、適切な遺伝カウンセリングが非常に重要です。検査の意義、限界、想定される結果とその意味について十分に理解し、心理的にも準備した上で検査を受けることが大切です。また、陽性結果が出た場合の選択肢や対応についても事前に考慮しておくことが推奨されます。

生活習慣病と遺伝医学

将来的には、糖尿病や冠状動脈性心臓病、高血圧、肥満などの一般的な生活習慣病への遺伝的寄与が更に明らかになり、リスクの高い人々に対して早期から予防的介入を行う「先制医療」が普及する可能性があります。

例えば、特定の遺伝子変異を持つ方には、それに適した運動療法や食事療法を推奨したり、発症リスクに応じた検診スケジュールを組んだりすることで、疾患の発症予防や早期発見に役立てることができます。

現在でもすでに、こうした疾患に関連する遺伝的リスク因子の検査が様々な形で提供されるようになっていますが、結果の解釈や臨床的有用性については専門家による適切な説明が必要です。

ファーマコゲノミクス(薬理遺伝学)

薬物療法の効果や副作用は患者さんによって大きく異なりますが、その差異の一部は遺伝的要因によって説明できることがわかっています。ファーマコゲノミクスは、個人の遺伝的背景に基づいて最適な薬剤選択や投与量調整を行う医療分野です。

  • 薬物代謝酵素の個人差:CYP2D6やCYP2C19などの肝臓の薬物代謝酵素の遺伝的変異により、同じ薬でも効きやすい人・効きにくい人、副作用が出やすい人・出にくい人が存在します。
  • がん治療薬の選択:特定の遺伝子変異を標的とした分子標的薬の選択に遺伝子検査が必須となっています(例:肺がんにおけるEGFR変異検査など)。
  • 抗凝固薬ワルファリン:VKORC1やCYP2C9などの遺伝子型に基づいて初期投与量を調整することで、重篤な出血性副作用のリスクを低減できる可能性があります。

今後、より多くの薬剤について遺伝子型に基づいた処方(ゲノム処方)が一般化していくことが予想され、「効かない薬」「副作用の強い薬」を避け、患者さん一人ひとりに最適な薬物療法を提供することが可能になっていくでしょう。

遺伝専門医の仕事とは?

遺伝専門医療サービスは、以下の点で他の医療サービスとまったく区別することができます。

  • ・数世代にわたる家族を扱う。
  • ・あらゆる身体系の障害に罹患しているか、その危険性があるあらゆる年齢層に対して遺伝的専門知識を提供できる。

遺伝専門医療の特徴

遺伝医療は他の医療分野と比べて独特の特徴を持っています:

  • 家系を対象とした医療:個人だけでなく、家族全体を診療の対象とします。患者さん一人の診断が、血縁者の健康管理にも重要な情報となります。
  • 予測的医療:現在は症状がなくても、将来の発症リスクを評価し、予防や早期発見のための対策を提案します。
  • 横断的専門性:小児科、産婦人科、内科、神経内科など様々な診療科の疾患を対象とします。
  • 倫理的配慮:遺伝情報の取り扱いには、プライバシー保護や心理社会的サポートなど特別な配慮が必要です。
  • 生涯にわたるケア:ライフステージの変化(結婚、妊娠計画など)に応じて継続的な支援を提供します。

この分野を専門的におさめていると認定されているのが臨床遺伝専門医で、全国に1500人くらいとまだ少ないです。臨床遺伝専門医は、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する専門医資格で、遺伝医学に関する深い知識と臨床経験を持つ医師です。

臨床遺伝専門医の役割と専門性

臨床遺伝専門医は以下のような幅広い役割を担っています:

  1. 遺伝学的診断:症状や家族歴から遺伝性疾患を疑い、適切な遺伝学的検査を選択・実施します。
  2. 遺伝カウンセリング:遺伝性疾患に関する医学的情報を提供し、患者さんやご家族の意思決定を支援します。
  3. 遺伝学的検査結果の解釈:複雑な遺伝子検査結果を解釈し、臨床的意義を評価します。
  4. リスク評価:家族歴や遺伝学的情報から、ご本人やご家族の疾患発症リスクを評価します。
  5. 多職種連携:必要に応じて他の専門医、認定遺伝カウンセラー、心理士などと連携し、総合的な医療を提供します。
  6. 最新の遺伝医学情報の提供:急速に進歩する遺伝医学の最新知見を臨床現場に取り入れます。

臨床遺伝専門医になるためには、基本となる診療科(小児科、産婦人科、内科など)の専門医資格を取得した後、さらに遺伝医療に関する専門的な研修を受け、試験に合格する必要があります。そのため、総合的な医学知識と遺伝学の専門知識を併せ持つ医師と言えます。

ミネルバクリニックの遺伝診療の特徴

その中でもミネルバクリニックは、大学病院以上のクオリティーで紹介状などなくても患者さんが直接アクセスできるようにというコンセプトで全国からたくさんのご相談をお受けしています。

大学病院や一部の総合病院の遺伝診療科では、多くの場合、かかりつけ医からの紹介状が必要であったり、初診予約から実際の診察までに数ヶ月待ちというケースも少なくありません。しかし、遺伝に関するご相談は、妊娠や治療方針の決定など時間的制約がある場合も多く、迅速な対応が求められます。

ミネルバクリニックでは、以下のような特徴ある遺伝医療サービスを提供しています:

  • 直接受診可能:他院からの紹介状なしでも直接ご相談いただけます。
  • 迅速な予約:緊急性の高いケースでは可能な限り早期の予約枠を確保します。
  • 豊富な検査メニュー:国内で実施可能な検査はもちろん、日本ではまだ提供されていない最先端の遺伝子検査も海外ラボとの連携により実施可能です。
  • オンライン遺伝カウンセリング:遠方にお住まいの方でもアクセスしやすいよう、オンラインでの遺伝カウンセリングも提供しています。
  • 多言語対応:日本語以外にも、英語での遺伝カウンセリングにも対応しています。
  • 継続的なサポート:検査後のフォローアップや、状況の変化に応じた再カウンセリングなど、長期的な視点でのサポートを提供します。

また、ミネルバクリニックにおいては世界中のラボ(検査所)に検査を提出することで、「出せない遺伝子検査はない」というくらいの体制を組んでいます。海外の最先端検査機関と直接提携し、国内ではまだ実施が難しい検査も含め、患者さんのニーズに合わせた幅広い検査オプションを提供しています。

これにより、以下のようなメリットがあります:

  • 日本国内では保険適用外の最新の遺伝子検査も実施可能
  • 網羅的な全エクソーム解析や全ゲノム解析などの高度な検査も選択肢に
  • 超希少疾患や国内で検査体制が整っていない疾患の診断も可能
  • 最新の解析アルゴリズムや大規模なデータベースを活用した高精度な結果解釈

関連記事:ミネルバクリニックの遺伝子検査のメニューについてはこちらをご覧ください。

ミネルバクリニックに全国から寄せられるご相談を通じて、臨床遺伝専門医がどういう仕事をしているのかを皆さんにご理解いただけたらいいな、と思います。

遺伝診療(遺伝カウンセリング外来)申し込みの方法

ご予約の申し込みページからご予約いただくか、お電話03-3478-3768からも承ります。

ミネルバクリニックでは患者さまへ正しい情報をお届けするために、
遺伝カウンセリングに関する様々な情報を公開しています。

医師からのメッセージ

遺伝情報と向き合うあなたへ

遺伝子検査の結果を知ると、驚きやショックを感じられることは、とても自然なことです。多くの方が「なぜ私が?」「家族にどう影響するのか?」と不安や戸惑いを抱えます。時には将来への計画を見直す必要があるかもしれません。こうした感情の変化は決して珍しいことではありません。

当院の仲田洋美院長(臨床遺伝専門医)自身も常染色体優性疾患の患者です。院長も初めてそのことを知った時は驚き、なかなか受け入れがたかったという経験をしています。自分の身体に予期せぬ「違い」があることを知る衝撃と、それを受け入れるまでの心の葛藤を実体験として理解しています。だからこそ、皆さんが今感じているお気持ちに深く共感し、寄り添うことができるのです。

しかし、遺伝情報を知ることには大きな価値があります。この知識は、あなたとご家族の未来のために役立つ大切な情報となります。例えば:

  • 症状の早期発見と適切な治療の開始
  • ライフスタイルの調整による健康管理
  • 家族計画に関する情報に基づいた選択
  • 同じ遺伝的特徴を持つ可能性のある血縁者への情報提供
  • あなたに最適な医療やサポートへのアクセス

遺伝情報は「知らないよりも知っている方が良い」場合が多いのです。この情報をもとに、あなたに最適なケアを計画し、より良い未来への道筋を立てることができます。

どんな不安や疑問も一人で抱え込まないでください。「これって普通の反応?」「この先どうなるの?」「家族にどう伝えれば?」――そんな悩みをすべて専門家に相談してください。ミネルバクリニックでは臨床遺伝専門医が直接あなたの気持ちに寄り添い、医学的な説明だけでなく、心理的なサポートも含めて、一緒に最善の道を考えていきます。

また、同じ遺伝的特徴や疾患を持つ方々のコミュニティもあります。経験者だからこそ分かち合える思いや、実践的なアドバイスが得られることもあるでしょう。必要に応じて、そうした患者会や支援グループもご紹介しています。

あなたは決して一人ではありません。遺伝的な「違い」があったとしても、あなたはあなたのままで大切な存在です。私たちはいつでもサポートいたします。不安な時も、迷った時も、ただ話を聞いてほしい時も、いつでもここにいます。

一緒に一歩ずつ、あなたのペースで前に進んでいきましょう。

ミネルバクリニック院長
臨床遺伝専門医 仲田洋美

参考文献

  1. 日本人類遺伝学会. (2023). 遺伝医学関連学会ガイドライン. 日本医学会.
  2. American College of Medical Genetics and Genomics. (2022). ACMG Technical Standards for Clinical Genetics Laboratories.
  3. World Health Organization. (2023). Guidelines on genetic testing and screening.

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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