目次
📍 クイックナビゲーション
- ➤ おたふくかぜ(ムンプス)による精巣萎縮と男性不妊の関係
- ➤ 精巣萎縮を経験した男性でも父親になれる可能性と医学的根拠
- ➤ 父親の精巣萎縮が胎児の先天異常リスクを増やさない理由
- ➤ 自然妊娠が難しい場合の現代医療による選択肢
- ➤ ミネルバクリニックでの遺伝カウンセリング・出生前診断サポート
30代の男性が20代前半でおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)にかかり、ムンプス精巣炎により片側の精巣が萎縮した──そんな経験を持つ方が、10年の月日を経て「子どもが欲しい」と思ったとき、どのような不安を抱えるでしょうか。
「精子が正常につくられるのか」「仮に子どもができたとして、胎児に何か影響が出るのではないか」──こうした不安は、おたふくかぜによる精巣萎縮を経験した男性やそのパートナーにとって、非常にリアルな問題です。本記事では、臨床遺伝専門医の立場から、最新の医学知見に基づいた正確な情報をお届けします。
おたふくかぜによる精巣萎縮を経験した男性でも、健康な子どもを持つことは十分可能です。現在の医学研究では、父親の過去の精巣炎が胎児の先天異常を増やすという証拠はありません。
おたふくかぜと精巣萎縮の関係
ムンプス精巣炎の発症率と症状
おたふくかぜは、耳の下の耳下腺が腫れることで知られるウイルス感染症です。しかし思春期以降の男性が感染すると、約3割の割合でムンプス精巣炎を合併することが知られています。
ムンプスウイルス(Mumps virus)は、パラミクソウイルス科に属するRNAウイルスです。飛沫感染・接触感染で広がります。子どもの頃の感染は比較的軽症で終わることが多いですが、思春期以降の男性が感染すると精巣炎を合併するリスクがあります。MMRワクチンで予防が可能です。
思春期以降男性の精巣炎発症率
片側性精巣炎の割合
精巣萎縮発症率
- → 典型的には一側(片方)の精巣のみが腫れる(60〜83%が片側性)
- → 陰嚢の強い痛みと腫れ・発熱や全身倦怠感
- → 炎症後の精巣萎縮(約30〜50%で発症)
- → 重症例では無精子症に至ることもある
精巣萎縮のメカニズム
精巣萎縮が起こるのは、ウイルスによる炎症で精巣組織がダメージを受け、精子をつくる細胞(生殖上皮)が破壊されるためです。精巣は白膜という硬い被膜に包まれているため、炎症による腫脹が圧迫に直結し、組織の虚血性壊死を引き起こしやすい構造になっています。
特に両側の精巣炎だった場合、精巣組織へのダメージは深刻で、不妊になるリスクが30〜80%とも言われています。一方、片側だけの精巣萎縮であれば、もう一方の精巣が正常に機能することで、多くの場合は妊孕性の維持が期待できます。
精巣萎縮が精子の質に与える影響
精子への具体的な影響
精巣萎縮が起きると、以下のような精子への影響が考えられます。ただし、これらは精子の「受精のしにくさ」に影響するものであり、後述するように胎児の先天異常とは切り離して考える必要があります。
精子DNA断片化(Sperm DNA Fragmentation)とは、精子の核内に含まれるDNA鎖が切断された状態を指します。酸化ストレスや精巣炎症などが原因で起こります。受精は成立しても胚の発育に支障をきたしたり、流産リスクが高まる場合があります。ただし断片化した精子は受精競争を勝ち抜きにくいため、自然妊娠で出生した赤ちゃんへの直接的な影響は限定的とされています。
血液-精巣関門への影響
ムンプス精巣炎では、炎症性サイトカインが血液-精巣関門(BTB)を破壊し、抗精子抗体が生成されることがあります。これが免疫学的に精子を攻撃し、精子機能をさらに低下させる要因となる場合があります。
血液-精巣関門(Blood-Testis Barrier: BTB)とは、精細管を構成するセルトリ細胞がつくる特殊な細胞結合であり、血液中の免疫細胞や抗体が精子(自己とは異なる遺伝情報を持つ)に触れないよう守るバリアです。精巣炎でこのバリアが損傷されると、免疫系が精子を「異物」として攻撃する抗精子抗体が産生されることがあります。
男性不妊への影響と現実
不妊リスクの実際
おたふくかぜによる精巣炎は、男性不妊の一因として古くから知られています。しかし、完全に子どもが持てなくなるケースは決して多くはないとされています。
- → 成人男性がムンプス精巣炎になると約10〜30%に妊娠しづらさが生じる
- → 片側性の場合:多くが自然妊娠可能
- → 両側性の場合:不妊率30〜87%(重症例)
現代医療による対応
自然妊娠が困難な場合でも、現代の医学では以下の選択肢があります。精子の状態に応じて最適な方法を選択できます。
- • 人工授精(AIH):精子を直接子宮内に注入する方法
- • 体外受精(IVF):採卵した卵子と精子を体外で受精させる方法
- • 顕微授精(ICSI):1個の精子を直接卵子に注入する方法。精子が極めて少ない場合にも有効
- • 精巣内精子回収術(TESE):射精精子がない場合も、精巣から直接精子を採取してICSIに使用
実際、ムンプス精巣炎後に精子数が大幅に減少した男性でも、顕微授精によって父親になった例が国内外で数多く報告されています。
胎児への遺伝的リスクは?
現時点での医学的見解として、おたふくかぜによる精巣萎縮の既往が胎児の先天異常リスクを増加させるという証拠はありません。父親の過去の感染歴は、生まれてくる赤ちゃんの健康に直接的な影響を与えないと考えられています。
根拠となる研究
アメリカ・ミネソタ州ロチェスターで1935年から40年間にわたって行われた大規模追跡調査(Beard らの研究)では、ムンプス精巣炎を患った男性の子ども(特に男児)に、生殖器や尿路の先天奇形が増える傾向は認められませんでした。
また複数の国際的な生殖医学研究においても、父親の精巣萎縮や精子の質の低下が、生まれてくる赤ちゃんの染色体異常や先天異常リスクを有意に増加させるという報告はされていません。
なぜ遺伝的影響が少ないのか──自然選択のメカニズム
精子の質が低下していても、実際に受精に成功するのは「競争を勝ち抜いた」精子です。このプロセスには、強力な自然選択の作用が働きます。
- DNAが断片化していたり運動率が低い精子は、受精能力そのものが低い
- 受精に成功するのは相対的に健康な精子由来のケースがほとんど
- 仮に質の悪い精子が受精しても、初期の胚発育が停止する確率が高い(着床不全・早期流産)
- 最終的に出生に至るのは、競争を勝ち抜いた健康な精子由来の胚
重要なポイント:精子の質の低下 ≠ 胎児の先天異常。自然妊娠が成立した場合、胎児への直接的な悪影響を示す医学的証拠はありません。
🔍 関連記事:NIPT陽性後の確定検査(羊水検査・絨毛検査)について
健康な妊娠・出産への影響
父親の過去のおたふくかぜによる精巣萎縮は、妊娠経過や赤ちゃんの健康に特別な悪影響を及ぼすとは考えにくいです。妊娠中の赤ちゃんの発育や出産の安全性に影響する主な要因は以下のとおりです。
- → 母体の健康状態
- → 胎児自身の遺伝的要因(染色体・遺伝子の状態)
- → 妊娠中の感染症予防(風疹・サイトメガロウイルスなど)
- → 定期的な妊婦健診による胎児発育の確認
不安が大きい場合は、出生前診断(NIPTや羊水検査など)を受けることで、胎児の染色体に関する情報を事前に得ることができます。漠然とした不安を具体的な情報に置き換え、落ち着いて意思決定する助けになります。
ミネルバクリニックでのサポート
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ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が常駐する施設として、感染症の既往歴がある方の妊娠に関する専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。以下のような不安をお持ちの方のサポートを行っています。
- • 過去の病歴と胎児への影響に関する詳細な説明・最新の医学的知見に基づいた情報提供
- • 個別の状況に応じたリスク評価と、必要に応じた各種検査のご提案
- • NIPT(COATE法)をはじめとする出生前診断のご案内と結果説明
- • NIPT陽性の際の確定検査(羊水検査・絨毛検査)を自院で実施(2025年6月〜)・互助会制度で費用をカバー
まとめ
- • 片側の精巣萎縮:もう一方の精巣が機能することで自然妊娠が期待できる
- • 胎児への遺伝的リスク:父親の精巣萎縮既往が先天異常を増やすという医学的証拠はない
- • 自然選択のメカニズム:健康な精子が受精競争を勝ち抜く傾向がある
- • 自然妊娠が難しい場合:IVF・ICSI・TESEなど現代医療による選択肢がある
- • 不安がある場合:臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング・NIPTの活用を
よくある質問(FAQ)
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過去の感染症歴や妊娠・出産に関する不安は、臨床遺伝専門医が常駐するミネルバクリニックへお気軽にお問い合わせください。
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関連記事
参考文献
- Masarani M, Wazait H, Dinneen M. “Mumps orchitis.” J R Soc Med. 2006;99(11):573-575. [PubMed: 17082302]
- Davis NF, McGuire BB, Mahon JA, et al. “The increasing incidence of mumps orchitis: a comprehensive review.” BJU Int. 2010;105(8):1060-5. [PubMed: 19912346]
- Beard CM, Benson RC Jr, Kelalis PP, et al. “The incidence and outcome of mumps orchitis in Rochester, Minnesota, 1935 to 1974.” Mayo Clin Proc. 1977;52(1):3-7. [PubMed: 13063]
- World Health Organization. “Mumps.” Fact Sheet. [WHO公式サイト]
- Centers for Disease Control and Prevention. “Mumps Complications.” [CDC公式サイト]
- ミネルバクリニック「NIPT(新型出生前診断)」 [公式サイト]



